契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「東雲さんだって満更でもなかったでしょう? 私を利用するだけして捨てるつもりっ?」
「人聞きが悪い。君を利用した覚えはありません」
「私との噂を否定しなかったじゃない! それって認めたのも同じだわ」
「いくら否定しても、貴女がまたすぐに根も葉もない噂を広めるから、放置していただけですよ」

 痴話喧嘩なら他所でやってくれと心の底から願う。
 よりにもよって、どうして今ここでなのか。

 ――そりゃ、普段は地下倉庫にひと気はないけど……! 自分の間の悪さを呪いたくなる。あと三十分前後にタイミングがズレてくれていたら、かち合わずに済んだはずじゃない?

 嘆き悲しんでも全ては後の祭り。
 一分一秒でも早くこの地獄の展開が終わってくれと、希実は真剣に祈った。
 が、神は無情。
 ゴトッと大きな音が聞こえたと思った直後、東雲の苛立ちを帯びた声が響いた。

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