塩系男子のステルス溺愛 ~義兄の愛はわかりにくい
そう言ってさめざめと泣く母の姿はドラマのワンシーンみたいで、ちっとも現実とリンクしない。今なんて言った?
不倫はしてないけど、好きな人がいて、それでどうしたいって?
「やっぱりお母さんには、結婚なんて向いてなかったのよ。正次さんみたいな素晴らしい人といてもどこか息苦しくて……」
あまりに自分勝手な台詞。これまでもずっと繰り返されてきたことが、また起こった。二度あることは三度あるという。だから、心のどこかで恐れていた。
「なに言ってるの、お母さん……。お義父さんあんなにいい人なのに」
自分を大切にしてくれる人を踏みにじって生きていくのは愚かだ。
恋愛経験すらないひなたにだってそれはわかる。
腹の底から怒りが湧き上がるけれど、その怒りはひなたの内面を焼くばかりで、母親にぶつけることはできない。
泣いている母親を置いて、ひなたは傘もささずに外へ飛び出した。
──もうお義父さんやたすく君に合わせる顔がない。
いつもコウシャクと行く森林公園へ一人で向かった。雨だから誰もいなくて泣くにはちょうどいい。心の中がぐちゃぐちゃだった。どうして人を裏切れるのか。周りの人が傷ついても自分を止められないのか。
母がわかりやすくひなたを叩いたり罵ったりするタイプなら、憎むこともできたかもしれない。いや、本当には、心のどこかで母親のことを憎んでいるに違いなかった。
一番納得できないのは、そんな母親に何一つ言えない自分の弱さだった。もうどこへも行く場所がない。