塩系男子のステルス溺愛 ~義兄の愛はわかりにくい
たすくが困った顔をする。それはそうだ。感情をぶつけていい相手じゃない。
「誰かになんかひどいことでもされたのか」
「ちがう……」
せっかく友達もできたのに。コウシャクとも仲良くできたのに。優しいお義父さんに、冷たいけど本当は優しいたすくに、慣れ親しんできた町。
またお別れかもしれない。
「お母さんが……、好きな人ができたって」
本当はまだ言ってはいけないとわかっていた。一人で抱えきれずに漏らした言葉を聞いて、たすくが眉を顰めた。
「お前さ……うちの子になれよ。母親がどこへ行こうとうちにいたらいいじゃんか」
そんな都合のいい話はない。黙って首を振る。
「怒れよ。もっと。本当は嫌なんだろ。黙って一人で泣くくらいなら、母親の前でブチ切れて暴れて泣きわめけ」
「できない……」
ひなたに性加害をした男と別れてほしいと言ったことがある。そうしたらかなえは見たことがないくらい悲しい顔をした。その顔を見て、理由は言えなくなった。
それ以来、母親の色恋沙汰に口を出さないと決めている。