塩系男子のステルス溺愛 ~義兄の愛はわかりにくい

 どれくらいそうしていただろう。トイレをノックする音がして我に返る。居酒屋のトイレは一つしかなくて、よく考えたらこんなところに立てこもったら迷惑だ。

 扉を開けるとハル君が立っていた。

「無理に誘ってごめんね。具合が悪いなら帰りなよ。うまく言っておくから」
「ううん。ちょっと体調が悪いだけなんだ」

 蕁麻疹はまだ収まらない。幸いまだ長袖の季節だから目立たないけれど、久しぶりだから自分でも驚いた。

 隣の座敷がやたらと賑やかで、大きな笑い声が聞こえてきた。大学近くの安い居酒屋は、4月は新入生歓迎の飲み会で賑わっている。
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