前世恋人だった副社長が、甘すぎる
ピアノの生演奏が始まるなか、怜士さんは知り合いの男性に挨拶をしていた。
私は川原さんのトラウマがあったため、隣でにこにこしているだけだ。
そんな私は、
「穂花さん」
不意に誰かに呼ばれた。
振り返るとそこには、さっき私を侮辱してさた川原さんが立っているではないか。
胸がズキっと痛んだが、令嬢時代に身につけた笑顔でさらりと交わす。
そのまま自然に遠ざかろうとしたが……
「先ほどは失礼なことを言って、申し訳ありませんでした」
川原さんに頭を下げられた。
川原電機の専務取締役に頭を下げられる私は、恐れ多い気持ちでいっぱいだ。
そして、早くこの場を離れたい。
「気にされないでください。
川原様のおっしゃることは、その通りのことですから」
そうやって、少しずつ距離を取って逃げるのだ。
だが、川原さんは離してくれない。
その色素の薄い茶色い毛を輝かせ、大きな瞳で興味津々に聞いてきた。