前世恋人だった副社長が、甘すぎる
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げる。
「勿体無いお言葉です。……ですが私は、本当にただの庶民なのです」
「そうですか……」
川原さんはなおも興味津々に私を見る。
私はその興味を何としても反らせたくて、
「川原様。ピアノの演奏が終わりましたよ」
ちょうど立ち上がって例をするピアノ奏者に拍手を送る。
そして
「素敵なショパンの即興曲第一番 変イ長調でしたね」
告げる。
もちろんこの曲を知っているのは、前世の記憶があるからだ。
今世の私はとあるロックバンドにはまり、ツアー参戦していただなんて言えるはずもない。