前世恋人だった副社長が、甘すぎる


断れば良かったのだろう。だけど前世貴族におもてなしをしていた私は、変に気遣ってしまった。

他人をもてなす際には、ホストは最大限努力をすると。


「私なんかに努まるか分かりませんが、川原様やゲストの方々が喜んでくださるなら……」

「ええ、もちろん喜びます。

どんな曲がいいですか?メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲なんてどうですか?」

「承知しました」


こうして私は、ピアノを弾く川原さんの隣でバイオリンを奏でた。

高校の管弦楽部以来バイオリンなんてしていない私の指を動かすのは正直難しかったが、ブランクがある私にしては上々の出来だった。

そしていつの間にか人々注目を集め、演奏を終えた瞬間拍手が湧き起こる。

座って会食を楽しんでいた人もスタッフも、全て手を止めて立ち上がって。

深々と礼をする前に、怜士さんが目に留まった。

会場の隅に立っていた彼は、酷くぽつんと見えて胸が痛んだ。

そして彼は、悲しそうな顔をしていた。

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