前世恋人だった副社長が、甘すぎる
私の演奏は、予想以上に好評だったらしい。
耳が肥えている上流階級の方々にも、中世のお嬢様の技術は通じるのかと嬉しくなった。
「どちらの令嬢ですか?」
「貴女が黒崎様の婚約者ですね」
私を囲む人々を笑顔で受け流し、
「川原様のピアノが素晴らしかったので、私も安心して演奏出来ました」
川原さんを立てておく。
そう、川原さんはさすが川原電機の子息とだけあって、そのピアノの腕も確かだった。
そして私は一刻も早く怜士さんの元に帰りたくなる。
「菊川さん。貴女の伴奏が出来て、僕も楽しかったです」
川原さんは心から嬉しそうに言ってくれて、なんだか私の心も晴れ渡った。
正直、川原さんに侮辱された時は、心の中がムカムカした。というより、怜士さんの足を引っ張る私自身に苛立った。
だが、この演奏で怜士さんの名誉も挽回出来ただろう。