前世恋人だった副社長が、甘すぎる



部屋の隅に立っている怜士さんに駆け寄った。


「怜士さん!」


後ろから声をかけると、彼は私に背を向けたまま立ち去ろうとする。

そんな怜士さんの様子に焦り、

「ねえ、怜士さん!私の演奏、聴いてくださいました?」

必死で引き止めようとする。

彼は私に背を向けたまま、

「……あぁ、素晴らしい演奏だった」

なんて小さく告げる。

その言葉が嬉しくて、

「ありがとうございます。

川原さんのピアノが上手で……」

私は不意に言葉を噤んだ。というのも、怜士さんが下を向いたまま、すごい勢いで私の手を引くからだ。


「えっ!?」

と思ったのは束の間、バランスを崩した私は、怜士さんの腕の中に飛び込む形となる。

その大きい胸に抱き止められ、その香りに満たされて、心臓が止まってしまいそうなほど甘い音を立てたのは言うまでもない。



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