前世恋人だった副社長が、甘すぎる
そして……怜士さんと本当に結婚することとなれば、この社長は義父になる。そんなことを考えてにやけてしまったが、慌てて元の表情に戻した。
怜士さんが挨拶をする時、私も立ち上がって頭を下げた。
こうやって目立たないように過ごしていたが……
「あ、君、副社長の秘書だね?」
四十代ほどの男性に声をかけられた。
慌ててはいと返事をする。すると、彼はにこやかに告げたのだ。
「噂で聞いてるよ。
君、プロも顔負けのバイオリン弾きだそうだね。
おまけに君が来てから、副社長も随分柔らかくなったとか。
今日副社長が挨拶している姿を見て、僕は目を疑ったよ」
「そ……そうなんですね……」
もう、バイオリンの話はやめて欲しい。
それにプロも顔負けだなんて、冗談でもそのようなことがあるはずはない。
だって、今だってぴくりと怜士さんが動いたから。
だけど、こうやって認められているのは嬉しかった。私はこのまま、秘書として隣にいていいのだと思って。
そして、
「ありがとうございます」
素直に礼を言っておいた。