前世恋人だった副社長が、甘すぎる

接客は得意だった。

どんなクレームを言われても、冷静に対処できた。

落ち着きは私の武器とさえ思っていたのに、今の私の声は震えていた。

黒崎怜士は甘い瞳で私を見たまま、まるで懐かしむように告げる。


「菊川さん……か……」




その瞬間、


「菊川さん!

は、はやく副社長にルームキーを!!」


近くで先輩の声がする。

先輩は私を気遣って小声で言おうとしたものの、慌てに慌てているのか酷く息の音がする声となって響き渡った。


「ふっ、副社長!?」


さらに私は大慌てだ。

ふ、副社長なの、黒崎怜士は!!?



< 15 / 258 >

この作品をシェア

pagetop