前世恋人だった副社長が、甘すぎる
接客は得意だった。
どんなクレームを言われても、冷静に対処できた。
落ち着きは私の武器とさえ思っていたのに、今の私の声は震えていた。
黒崎怜士は甘い瞳で私を見たまま、まるで懐かしむように告げる。
「菊川さん……か……」
その瞬間、
「菊川さん!
は、はやく副社長にルームキーを!!」
近くで先輩の声がする。
先輩は私を気遣って小声で言おうとしたものの、慌てに慌てているのか酷く息の音がする声となって響き渡った。
「ふっ、副社長!?」
さらに私は大慌てだ。
ふ、副社長なの、黒崎怜士は!!?