前世恋人だった副社長が、甘すぎる



黒崎怜士、いや、副社長は相変わらず優しげに私を見て、


「大丈夫です」


そっと告げる。


「私は今日、貴ホテルの様子を見に来ただけですから。

お騒がせして申し訳ありません」


「い、いえ……」


そう言うのがやっとの私。

得意の社交辞令や営業スマイルなんて出てこなかった。




ガクガク震え、立っているのがやっとの私に、


「改めてお話しましょう、菊川さん」


副社長は目を細めて柔らかく告げる。

こんな顔をする時、マルクは私の頭をそっと撫でる。

だけど副社長はそのまま軽く一礼をして去って行った。

すっと伸びた背筋、そこだけスポットライトが当たっているかのように華やかな副社長の背中を、私はずっと見つめていた。




私は何か勘違いをしているのだろうか。

マルクになんて、会えるはずもない。

しかも、大富豪冷酷性格悪副社長が、マルクだなんて……




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