前世恋人だった副社長が、甘すぎる
ぼんやりとしている私の耳に、
「きっ、菊川さん!?大丈夫!!?」
悲鳴のような先輩の声が聞こえる。
それではっと我に返った。
「菊川さん、ヘルプを呼びましょう!
誰か、菊川さんと変わってください!!」
すかさず奥から後輩が現れる。
それで先輩は私の背中を押し、バックヤードへと押し込む。
「大丈夫、菊川さん、落ち着いて!!」
そう言う先輩も取り乱している。
「副社長は情け容赦もない氷の悪魔だけど、さすがに菊川さんをクビにはしないだろうから!」
「く、クビ!?」
ここで初めて、私は大失態を犯したことに気付いた。
副社長に気を取られ、フロントの仕事がしっかり出来なかったのだ。
副社長は視察に来たというから、私の仕事ぶりを低く評価したに違いない。
こいつ使えないと、容赦なく斬り捨てるのかもしれない。
「き、菊川さん!
いくら副社長の態度が冷たくて厳しくても、気にしないで!!」
ちょっと待って。
副社長が冷たくて厳しい?
少なくとも私には、そう感じられなかった。
むしろ……