前世恋人だった副社長が、甘すぎる
8.貴方じゃなきゃ、駄目なんだ
ー怜士sideー
俺は腕を組んで部屋の中を睨んでいた。
扉の前には紅茶とケーキを持った小川。
酷く怯えた目をして俺を見ている。
「怜士さん……お茶を持って参りました」
それをそっとデスクに置かれるが、俺は見ないふりをした。
こうやってずっと、俺は無言の抵抗を続けている。
小川にその気がないと分からせれば、そのうち音を上げると思っていた。
だが、この女は予想以上にしぶといらしい。
何としても、黒崎ホテル副社長の妻の座を取りたいようだ。
そしてこの女、根っからの箱入り娘だろう。秘書の仕事以前に、仕事すらやる気がないのだ。
何も出来ないから、結局田川に頼む始末だ。
「おい、田川」
俺はデスクの上に設置された、田川を呼ぶ用の呼び鈴を押す。
すると、見慣れた引き攣った顔の田川が現れた。
「稟議書、テキトーに判押しておけ」
「そ……そんなめちゃくちゃな……」
「こんな会社が潰れたっていい。この女とやってこい」