前世恋人だった副社長が、甘すぎる


ー穂花sideー




どうしてこんなことになってしまったのだろう。

もう、人生がかかっていると思って、本気中の本気で弾いたのだけど。





観客総立ちでの喝采の中、私はようやく辺りを見回した。

怜士さんを見たくはなかった、だって、気持ちが一気に溢れて泣いてしまいそうだから。

だけど、彼がどんな顔で私の演奏を聴いてくれたのかが気になった。

実は怜士さんもピアノが上手だと聞いた私は、密かに恐れていた。穂花、たいしたことないなとか、ミスしたとか思われていないだろうか。

いや、その前に婚約者といちゃいちゃしていたらどうしよう。

冷めた目で私を見ていたらどうしよう……



だけど、窓際の奥の席にいる彼を見て、泣きそうになった。

だって、あの時と同じような泣いてしまいそうな顔で私を見ているのだから。

頬を染めて、口元をきゅっと結んで。



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