前世恋人だった副社長が、甘すぎる
怜士さん、そんな顔で私を見ないでください。
もうそろそろ諦めようと思っているのに、私はまたあなたの罠にかかってしまう。
再度礼をし、早く退出しようとした。
だけどその時、不意にマイクで拡張された声が聞こえたのだ。
「ただいま、リクエストが入りました。
ピアニストの穂花さん、もう一曲お願い出来ますか?」
聞き覚えのある声だが、焦ってしまった私は頷くしかない。
声は続けた。
「ありがとうございます。
リクエストは……ピアノ協奏曲でございます。
ですが演者がもう一人いません。
どなたか、急ではありますが、我こそがピアノ協奏曲を弾くという強者はおられませんか?」
いるはずがない、いるわけがない。
そもそも、初対面で息の合ったピアノ協奏曲を弾くなんていうことは、それなりの技術がないと不可能ではないか。
バイオリンの時も、川原さんが凄腕なのと、私に合わせてくれたから……