前世恋人だった副社長が、甘すぎる
しーんと静まり返る会場。人々は誰か勇者はいないかと、周りをきょろきょろ見る。
でも、私は何となく分かってしまった。
だって、受付の横でマイクを持って話しているのは泉だったから。
泉は私にウインクをしたから。
そしてそのまま、泉は告げた。
「えっ、副社長!?副社長、勇者!?
……失礼しました。
なんと、我が黒崎ホテルグループの黒崎副社長が、穂花さんと協奏曲を弾いてくださるらしいです」
喝采が起こる。
そして私は恥ずかしくなって俯く。
泉、知っていたんだ。いや、絶対に企んでいたよね。
なんて残酷な悪戯だろう。
だけど……怜士さんの姿を捉えるたび、怜士さんが近付くたび、身体が熱い悲鳴を上げる。
大好きだって身体全身が言っている。
私の目の前まで来た怜士さんは、やっぱり泣きそうな顔をしていた。だけど嬉しそうに私を見る。
その怜士さんの顔を見て、心配や寂しさなんて吹っ飛んでしまった。
怜士さんはこうして、私を迎えに来てくれたのだ。