前世恋人だった副社長が、甘すぎる
泣きそうな彼に、私はわざと驚いたように聞く。
「出来るんですか!?」
だけど彼が簡単に出来ることくらい、知っていた。
だって怜士さんはコンテストで川原さんに勝ったわけだし……きっと、息も合う。
こうやって隣にいると安心する、例え私が失敗しても、怜士さんがフォローしてくれるだろうと思って。
彼は頬を染めて頷いた。
「小さい頃から……理由も分からない頃から、ピアノだけは取り憑かれたように練習していた。
あの曲を弾くために」
ベートーヴェン、ピアノ協奏曲第五番『皇帝』。
前世私は彼と、この曲を演奏したいと願っていた。
そんなことまで覚えていたなんて。
曲目の確認すらしなかった。私はグランドピアノに、彼は近くにあったアップライトピアノに腰を下ろす。
しーんと張り詰める空気の中、それは始まった。