前世恋人だった副社長が、甘すぎる
「婚約、破棄になったんだ。
あの人、穂花のピアノを聴いて怯えてしまって……」
「そりゃあそうだよ、あれ聴かされたら逃げるしかないって。
それに穂花、ピアノ弾いたあとぶっ倒れるんだもん!」
そうなのか。どうりで記憶がないはずだ。
……私は文字通り全身全霊でピアノを弾いた。そのまま力を使い果たして倒れてしまったのか。
やっぱり、私にピアニストは務まらないと思い知る。
「それだけじゃないよ。本社に勤める社員がストライキ起こしてさあ。
穂花が帰ってこないなら、仕事辞めるって!」
「えっ!?何その冗談みたいな話」
冗談みたいだが、どうやら本当らしい。
ベッドに寝そべって私を抱きしめたまま、怜士さんが自慢げに言うのだから。
「俺が穂花がいないからと、超パワハラの演技をして、一泡吹かせてやったから」
「いや……演技ではないでしょう、それ」
ため息混じりに告げた。