前世恋人だった副社長が、甘すぎる
そもそも、副社長は私を秘書にしたなんて、周りにどうやって説明しているのだろう。
もちろん秘書なんて仕事は初めてだし、何をしていいのかもさっぱりだ。
きっと副社長秘書は精鋭揃いだし、こんな私を白い目で見るのだろう。
だけど……砂糖のように甘かった副社長を思い出すと、不覚にも胸がドキドキ音を立てる。
いや、副社長なんかに惚れてはいけない。
マルクなのかもしれないが、噂で聞く副社長はマルクとはほど遠い。
そもそも、私がクリスチーヌの生まれ変わりだということ自体、妄言かもしれないのだ。
ビルを見上げながら震えている私を、
「菊川さん」
低くて甘い声が呼ぶ。
身震いしながら振り返ると、なんと副社長が立っていた。
あまりに突然の登場により、硬直して何も言えない私。
こんな時こそ、気の利いた一言が大切なのに。
なのに、副社長を前にすると、どんな演技も営業スマイルも、全て効果を失ってしまう。