前世恋人だった副社長が、甘すぎる



彼女は少し紅茶を飲んだ。

そしてまた、話を続ける。


「ここのところ、怜士が穏やかになったという話を頻繁に耳にしました。

それで怜士の様子を見ていたのですが、その変化に目を疑わずにはいられませんでした。

怜士は昔のように笑うようになったし、人に感謝し頭を下げるようになった。

経営者として、人に感謝出来ないのは致命的です。

だけど怜士は、そこをようやく出来るようになった……」


「怜士はようやく人の上に立てると思った。

今の怜士なら婚約者も大切に出来るだろうと思い、小川ホテルのご令嬢と婚約を結んだ」


次の言葉は社長からだった。

その笑っていない目が恐ろしかったのだが、今の彼は酷く落ち込み、その目は暗い光を湛えている。



「でも、上手くはいかなかった。

穂花さんがいなくなった怜士は昔と同じように……いや、それ以上に荒れた。

社員には当たり散らし、ご令嬢には失礼な対応をする。

会社の業務だって放置して、急に副社長室に置いた電子ピアノを弾いてばかり。

そんな怜士にとうとう付き合っていられなくなった社員は、ストライキを起こした。

『菊川さんを、副社長秘書に戻すように』という訴えを掲げて」


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