前世恋人だった副社長が、甘すぎる
「その時に、ようやく気付いた。怜士が心を取り戻したのは、穂花さんが隣にいたからだ。
穂花さんがいなければ、怜士はまたもとの悪魔に戻ってしまうのだと」
気の利いた言葉をかけたいが、もはや何も言えなかった。ただ、怜士さんを思うと胸が痛くなった。
同時に、私はこんなにも怜士さんの心の拠り所になっているのだと知り、嬉しくも思った。
社長が口を閉じると、次は母親が話し始める。
相変わらず穏やかに、静かに、その言葉を紡いだ。
「この時点で、怜士には穂花さんしかいないと分かりました。
でも……昨日の会食で、いかに怜士が穂花さんのことしか考えていないのか分かりました。
怜士は昨日の夜、何も食べずずっと祈るように穂花さんを見ていました。
私たちは、怜士がこんな泣きそうな顔をすることに驚きましたし、こんな怜士を見たことなんてありませんでした。
そして、怜士が仕事をせずにずっとピアノの練習をしていたのも、この日のためだと気付きました」
正直、仕事をせずにピアノを弾いていたことは驚きを隠せない。
それでは副社長失格だと怜士さんに伝えなければいけないだろう。
でも、そこまで私のことを考えてくれていた怜士さんの行動に、また泣きそうになる。