前世恋人だった副社長が、甘すぎる
副社長は何も言わなかった。
ただ、顔を上げると寂しげな笑みを浮かべていた。
そんなに脆くて壊れてしまいそうな顔で、私を見ないで欲しい。
私だって、なんだか酷く懐かしくて、胸が熱くて、そしてぎゅっと抱きつきたいような気持ちでいっぱいになる。
だけど、万が一にもここで副社長に抱きついて仕舞えば、私は変質者だ。
「それでは、副社長室に案内しましょう」
そう言って彼は私に背を向けて歩く。
私よりもずっと背が高く、スーツを着ている後ろ姿はすらりとしている。
だが、意外にも肩幅は広く、引き締まった体をしているのかもしれない。
引き締まった体……そんなことを考えて、ぼっと顔に火が灯る。
そして、すれ違う人はみんな驚いた顔で副社長を振り返るのだった。