前世恋人だった副社長が、甘すぎる
最上階に着くと、スーツを着た社員たちが廊下に並んでいた。
そして、
「おはようございます、副社長」
頭を下げる。
その光景に唖然としつつも、ふと思い出した。
夢の中……そう、前世でもこんな光景を見たことがある。
前世、領主だった私の父親に、家の召使いたちはこうやって頭を下げていた。
頭を下げる社員たちの間を、颯爽と歩く副社長。
私はどぎまぎしながらも、その後を追う。
そして副社長室に入ると、黒くて立派なソファーの中央に案内される。
この部屋の主は副社長なのに、まるで召使いみたいに私の隣に立ち、
「菊川さん、どうぞおかけください」
ソファーに手を向ける。
座ってもいいのか!?
副社長より先に、私が座ってもいいのか!?
それに、開かれた扉の前にずらっと並ぶ社員たちが、私を驚いた顔で見ている。
その信じられないといった視線を華麗に無視して、副社長はさらに信じられないことを告げたのだ。