前世恋人だった副社長が、甘すぎる
「田川。菊川さんに、お茶とお菓子を持ってこい」
「……は!?」
思わず言葉が出てしまって、口を押さえる。
そんな私の言葉に、さらに青ざめる社員たち。
田川と呼ばれた男性……それも、私よりもずっと歳上のその男性は、とても遠慮がちに聞く。
「で、ですが副社長……菊川さんは副社長の……」
「俺の、なんだ?」
副社長の先ほどまでの柔らかい空気なんて、もはやどこにもなかった。
氷の副社長、その言葉がぴったりなほど空気が凍りついている。
だけど当の副社長は、そんな空気なんて感じ取らないのだろうか。
「田川、ダマンフレールのフレーバーティーだ」
だ、ダマンフレール!?
その名は私も知っている。知っているというより、夢の中で見た記憶がある。
……そう、前世領主の娘の私は、ダマンフレールのような高級紅茶を飲んでいた。
もちろん、今世の私には無縁だが。