前世恋人だった副社長が、甘すぎる



副社長はみんなの視線を集めるなか、至って普通の涼しい顔で私の隣に腰を下ろす。

初対面みたいなものなのに、なぜか距離も近い。

人々の視線が痛いのと、副社長相手にどうすればいいのか分からないのと、なぜか酷く体が熱く胸が痛いので、私は身をきゅっと縮めた。



「菊川さん、そんなに緊張しなくてもいいんだよ」


副社長はまた、猫撫で声で私に告げる。

先ほどの、田川さんに放った無情な声とあまりにもかけ離れていて驚くばかりだ。

そして、田川さんをはじめ社員の皆さんに申し訳なく思う。


「す……すみません……」

なんて言いながらも、もちろん緊張が解けない私。

こんな居心地の悪い空気の中、田川さんが紅茶とお菓子を持って現れた。

そして丁寧に私の前にかがみ、紅茶とお菓子を出してくれる。

カラフルないかにも高そうなマカロンと、ほんのりラベンダーの香りがする紅茶。

そしてもちろん、それらはとても高価そうな食器に入っている。

やっぱり副社長は世界の違う人だと再確認しながらも、どこか懐かしさを感じる。

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