前世恋人だった副社長が、甘すぎる


「彼女がいなくなって、俺は心を失った。

だけど、ようやく前進出来そうだ」


その、長くて少しごつっとした指先が、そっと私の髪に触れる。

副社長が触れた瞬間、ビリリッと電流が流れる。


「穂花……」


急に名前を呼ばれてどぎまぎする私。

副社長の前では、得意の気の利いた演技も営業スマイルも繰り出せなくなる。


「側にいてくれ……」


切なげな、消えてしまいそうな声。



私は深呼吸をした。

そして、なんとかこの重々しい空気を打開したいと思う。

私と副社長は仕事上の知り合いだし、いきなりこんな話を持ちかけられても困る。

……通常であれば、そのはずだ。


< 34 / 258 >

この作品をシェア

pagetop