前世恋人だった副社長が、甘すぎる
「彼女がいなくなって、俺は心を失った。
だけど、ようやく前進出来そうだ」
その、長くて少しごつっとした指先が、そっと私の髪に触れる。
副社長が触れた瞬間、ビリリッと電流が流れる。
「穂花……」
急に名前を呼ばれてどぎまぎする私。
副社長の前では、得意の気の利いた演技も営業スマイルも繰り出せなくなる。
「側にいてくれ……」
切なげな、消えてしまいそうな声。
私は深呼吸をした。
そして、なんとかこの重々しい空気を打開したいと思う。
私と副社長は仕事上の知り合いだし、いきなりこんな話を持ちかけられても困る。
……通常であれば、そのはずだ。