前世恋人だった副社長が、甘すぎる
私の知っている懐かしい話し方だが、私の知っている柔らかさや甘さは全くなかった。
ただ、事務的で冷やかで相手を遮断するような話し方だった。
そんな副社長をドキドキしながらずっと見ている。
やがて電話が終わり、受話器を下ろした副社長は何か言いたげに私を見る。
だが、副社長はこのあと部屋を出ることが分かってしまった。
フランス支局長との電話で、彼はこれから関東地方のホテル支配人と、春のイベントについての打ち合わせがあると言っていたから。
それなのに、副社長は
「おいで、穂花」
なんてまた甘い言葉を吐く。
その腕に飛び込んでしまいたい気持ちをぐっと抑え、私は告げた。
「副社長、九時半から打ち合わせですよね?
もうあと三分しかありません!
急いでください!!」
そしてそのまま部屋から押し出した。