前世恋人だった副社長が、甘すぎる
ここでようやく思い出した、副社長は氷の副社長だということを。
その氷の副社長に、私は失礼な態度をたくさん取ってしまった。
だけど、副社長は何とも思っていないらしい。
「俺が部屋を開ける間、穂花の護衛をしておけ」
……は?何か違うでしょう、副社長!!
「穂花に何かあったら……殺す」
文字通り、本当に殺気に満ちていた。
このまま、田川さんは刺されてしまうのではないかというほどに。
だから私は慌てて言う。
「なっ、何もないし、殺さないでください!
……あ、そうだ。その間に田川さんから仕事について聞いておきます」
「そうか」
副社長はまた、悲しそうな顔をする。
「なるべく早く帰る」
背を向けて歩き出す副社長を見ながら、ドキドキする胸を押さえた。
冷酷な副社長は、私の前では昔の甘いマルクのままだ。
だけど何となく分かっていた。
副社長は私にクリスチーヌを重ねているだけで、菊川穂花を好きなわけではないことを。