前世恋人だった副社長が、甘すぎる



それから、副社長の秘書の業務を田川さんから引き継いだ。

そう、私が来る前の秘書は田川さんで、副社長の仕打ちによって精神をギリギリまで削られていたのだ。

そして、田川さんと話していると、田川さんがいかに優秀な人なのかも何となく分かった。

こんな田川さんのポジションに、私が入るなんて……

当の田川さんは、もちろん秘書の座を降りることを喜ばしく思っているようで、盛んに礼を言われた。

妬まれることがないのは嬉しいが、素直に喜べない部分もあったのだ。



仕事を聞きながら、田川さんはぽろりと溢した。


「ここだけの話、昨日から副社長の様子が変だったんです。

今日だって副社長の機嫌がいいようで、あんなに穏やかな副社長、初めて見ました」



あんなに穏やか!?その言葉を信じられなかった。

副社長は確かに私の前では甘々だったが、田川さんに対しては冷血そのものだった。

こちらが引いてしまうほど、情け容赦ない……そう、まさしくパワハラそのものだった。

その副社長を……穏やか?


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