前世恋人だった副社長が、甘すぎる


私は今まで気付かなかった。前世の私がマルクの身代わりとなって撃たれた後、彼がどんな一生を辿ったのか。

私はマルクの命を守ったのかもしれないが、彼の心はその時に死んだのだろう。

だけど……私の前世がクリスチーヌだと肯定するのが怖い。

だって副社長は、穂花ではなくクリスチーヌに惚れているのだから。



「何言ってるんですか」


私は努めて笑顔で、そしてさっぱりと副社長に言う。


「私は副社長室の秘書ですから、いつもここにいます」


もう分かっていた、私がこんな言葉を返すと、副社長は酷く悲しい顔をすること。

だけど、私は自分の心を守るためにも、こうすることしか出来ない。

それなのに、私の心はすでに副社長に蝕まれつつあったのだ。


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