前世恋人だった副社長が、甘すぎる





「そうか……」


怜士さんは何かを思い出すかのように、目を細めて遠くを見ていた。


「俺の心は一度殺された。

いや、憎しみが大きすぎて、周りを見ていなかったのかもしれない。

他人は信用しないし関心もない、だけど穂花がそこまで言うなら……」



私は、怜士さんの全てを知らない。

クリスチーヌが死んだあと、彼が何を考えてどう生きたのかも知らない。

だけど、怜士さんが心を取り戻してくれたら、とても嬉しい。

もちろん、今はマルクではなくて怜士さんそのものが好きなのだが。



「私は死にませんし、怜士さんのそばにいます。

だから怜士さんももうそろそろ……」



もうそろそろ……前世のように、心穏やかに過ごしてはいかがですか。そんな言葉をぐっと呑んだ。

私にクリスチーヌの記憶があると知られてはいけないから。


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