エイプリルフールなんだから

side 美結

 さあ、今だ。言うんだ。勇真に、好きだって。
 今日しかない。あとで嘘だと言い訳できる、今日しかチャンスがない。そう、今日はエイプリルフール。エイプリルフールは嘘をついていいと決めた誰かに、私は感謝した。
 勇気を振り絞って顔を上げたとき、最悪のタイミングで勇真が言った。

「そうだ俺、彼女出来たんだ」

 ドン、と、崖から突き落とされたような気がした。私は持っていたタピオカミルクティーのカップを、口をあんぐりと開けたまま取り落とした。


「そう……なんだ。先越されちゃったな~、お前に彼女出来るとか信じられないわ。まあとりあえず良かったね、おめでとう」
 今まさに告白しようとしていたことなどなかったように私は振舞った。気づかれないように、気づかれないようにと祈りながら、「いつもの私ならどういうか」を必死で考えた。少し長いセリフになってしまったけど、きっと気づかれなかったはずだ。私は、演劇部のエースだから。
「あはは、良いだろ! ネットで知り合ったんだけどさあ、可愛いんだよ」
 勇真は、いつもと違う、ぎこちない様子で笑った。まさに恋する男って感じ。

 そうか。私、失恋しちゃったんだ。

「のろけきっつ~、つかネットで彼女とかミーハーじゃん」
「そうかー? まあな、今時ネットだろ。世界中と繋がるんだぜ?」
「あーはいはい」

 涙が出そうになって、私はタピオカミルクティーに視線を落とした。勇気を出すために何度もがぶ飲みしたせいで、タピオカばかり残っているそれが、さらにみじめさを強調しているようで、私の心をむしばんでいく。

「そ、そうだ。あたし、今から用事。言ってあったよね?」
 もちろん嘘だけど、許されるはずだ。だって今日は、エイプリルフールなんだから……。
「あー、そうだっけ? まあ、頑張れ~」
 興味のなさそうな勇真に背を向け、私は逃げた。カフェを出たら、ひとりで吐き捨てる。
「彼女いるなら、女と二人で会うなよおっ」
 涙声になった。空は、勇真が頼んだマンゴージュースみたいなオレンジ色だった。
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