エイプリルフールなんだから

side 美結

 家に帰って散々泣いて、少し冷静になった私は、スマホを開いた。気分転換しようと思ったのだ。
 そして、驚いた。勇真からの恐ろしい数の着信が来ていたからだ。
 私は、よく考えずに折り返しの着信をした。

『もしもし』

 けだるそうな鼻声。風邪でも引いたのかな、と心配になったけど、心配してくれる彼女が他にいるんだと気づいて、怒りのこもった声で返事してしまった。
「うちだけど。あの着信なんなわけ?」
『……ごめん』
 その泣きそうな声に、さらに腹が立つ。燃え上がる嫉妬心と失恋の深い海みたいな気持ちの混ざった、紫色の声で私はまくしたてた。
「つかさ、彼女いるんでしょ? 女の私と連絡取ったり一緒にカフェ行ったりするとか、あったまおかしいんじゃないの? あんたの彼女にチクってあげようか?」
『……ない、だ』
「へ?」
 よく聞き取れなくて、聞き返した。は? と言いかけたけど、寸前でEに変えた。
『いないんだ』
「……いない? 何が? 彼女が失踪したの?」
『……違ぇよ。彼女なんて、最初からいない』
「……は?」
 長い沈黙の後、絞り出した言葉はHEにはできずにHAになった。
「いないの? えっ、いないの? あっ、エイプリルフールだったの? もしかして」
 一気に声が弾んでしまったことに気づき、恥ずかしくなった。
 でも、なんだ、それ!
『そうだよ。お前、真に受けただろ。結構ショックだったぜ』
 ショック……?
「ははっ」
 笑えて来た。ほんと、馬鹿らしい話だ。
「あはは、あはははは!」
『な、なにがおかしいんだよ!』
「あんたがよ、あはははは!」
『いやいや、おかしいのはお前の方じゃないのか? まんまと騙されやがって』
「……好きだよ」
『え? 何て言った』
 ああ、言えた。なーんだ、こんな簡単なことか。
 どうして言えなかったのか、不思議になるほどだ。
「聞こえてたくせに」
『はは、バレたか』
「エイプリルフールだからね」
『そうだな』
「で、返事は?」
『……OKだよ。俺も、ずっと好きだったし。お前なら、俺が嘘ついた理由もわかるだろ』
「うん、だいたい想像つく。ほんと、ばからしー」
『お前もお前だけどな。泣いてただろ』
「な、泣いてなんか……!」
『俺ら、似た者同士だったんだな』
 そして、二人で電話越しに笑った。
 カーテンを開けると、満天の星空だった。
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:6

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop