曇りのち晴れ、SWAN航空幸せ行き〜奥様はエリートパイロットともう一度愛しあう〜
第二話
翌日、初めてのスクールに行ってみて、愕然とする。
「できない……」
希空は床にへたり込んだ。
教えてくれる動きがまったくわからないのだ。
頭で理解しようとしても、体は反応しない。
講師は初心者に親切で、まずは自分にも観客にも『踊ってるぽく見える』という、スネイクアームという振り付けを教えてくれた。
その名の通り、蛇の動きを模した優雅な腕の動きをなのだが。
『どうだった?』
くたくたになって家に帰ったらメッセージが届いていたので、早速泣き言を訴えた。
『はじめはみんなそうだよ』
メッセージアプリから、理人が慰めてくれる。
「そうかもしれないんですが、先生と私の動きが別世界すぎるんです」
希空はアプリにタコが泥酔しているスタンプを送った。
「世界に三つしか動きがなくて、絶対にどれかに属さなければ牢獄に入れられる法律があったとしたら。ロボットダンスとか、アニメーションダンスのほうに近いといいますか」
『法律って』
理人からは、笑いすぎて転げ回っているクマのスタンプが送られてくる。
「そのジャンルを真剣に踊られている方々に『一緒にすんな!』って怒られるの確実です。でも、絶対にスネイクアームではないんです」
『ヤメテ』 というメッセージとともに、瀕死のクマのスタンプが送られてきた。
「あ、でも。レッスン着は褒められたんですよ!」
ダボダボ、地味がデフォルトだった希空としては大冒険だった。
ドキドキしていたら講師やスクール仲間から『スタイル抜群!』と褒められたのである。
まじりっけのない賞賛を浴びたのは初めて、希空は舞い上がった。
踊りが散々だったから挽回するつもりで報告したのに、理人からのリアクションが途切れる。
「理人さん?」
『他の奴に、俺より先に希空のセクシーなコスチューム姿を見せたの?』
膨れっ面のクマのスタンプも送られてきた。
……確かに。
ベリーダンスのレッスン着は、お腹の動きがわかりやすいようにという意味あいがあるのかもしれない。
上半身はブラジャーと同じくらいしか布の面積がないものが多い。
下半身用は腰の線がはっきり出るようなパンツやスカートが多い。
希空が買い求めたものもそうだった。
なんて返事をしようかと考えていると。
『俺が希空と離れて寂しい想いしているのに。見せて』
クマが肉球を差し出しているスタンプが送られてきた。
「え……と」
希空がなんと答えようか考えていると、理人も意地になってるのか、メッセージが戻ってこない。
やがて、希空は根負けした。
「ぜーったい! 他の誰にも見せないでくださいね?」
『誰がみせるか。俺の希空が減る!』
嬉しい言葉が返ってきたので、恥ずかしいがレッスン着に着替えた自撮りの写真を送った。
とたんに。
『これでフライト頑張れる!』
ありがとう、感謝、ハートマークだらけのクマのスタンプが連続で届いた。
はしゃいでいる恋人が可愛いく思えた。
……翌日、中番出勤。
レッスン着を理人に褒められたことで、少し勇気が出た希空はピッタリとしたトップスで出勤してみた。
ベリーダンスを調べるうち、勇気を出して検索した、海外ブランドのショップで選んだもの。
胸の大きい女性向けのラインが出ており、ネットで見ると強調しすぎず、さりとて無理に小さくみせたり隠さないバランスに惹かれた。
「うー、緊張する」
バンジージャンプをしたつもりで、ぽちっと通販サイトの購入ボタンを押したのである。
昨日とどいたので、おそるおそる着てみた。
しかし根がチキンだから、カーディガンなどを上に羽織ってしまう。
「おはようございます……」
空港にあるグラハンの事務所に着いた途端、凝視されたので、希空は凹んだ。
ところが。
「どーおしちゃったの、雲晴さん! モデルみたいだよ、絶対にこういう服のほうが似合うって!」
リーダーやママさん同僚にわっと囲まれた。
二十時すぎ。休憩時間に、希空はいそいそと携帯を取り出す。
同僚に私服を褒められたことが嬉しくて希空は早速理人にメッセージを送った。
「今日の服、同僚に褒められました」
すると。
『見せて』
早すぎる。
あちらの時差はいつなんだろうと希空が計算していると、早く早くと急かしてくるクマのスタンプが送られてきた。
「まだ制服なので、着替える時に送ります」
そわそわしているクマのスタンプが返事だった。
帰りの時刻になり、ロッカー室で着替えて姿見の前で自撮りをする。
蛍光灯が気になるが、仕方ない。
「こんなんです」
送った途端。
『ブラボー! でも、なるべく隠して。俺以外に見せないで!』
すぐさま届いたのは、ひざまずいて祈っているクマのスタンプだった。
笑ってしまった。
メッセージの中の彼はお茶目で、とても威厳のある機長とは思えない。
……機長といえば。
希空はあることを思いついて、急いでメッセージを送った。
「私も理人さんの機長姿、欲しいです!」
『惚れ直して』
メッセージと共に機長である四本ラインが入ったジャケットに制帽を身につけた姿、ワイシャツ姿など数枚が送られてきた。
キリリとしていて、これがクルーが知っている理人なのだろう。
しかもカメラ目線の画像。
ときめかないはずがない。
『お嬢様、お気に召しましたか』
メッセージが送られてきたので、大興奮で返事をする。
「かっこいい! 大大大好きだったけど、さらに惚れ直しました!」
ハートマークを乱舞させたら、クマがガッツポーズをしてきた。
「うわぁ。宝物だぁ……どうしよう」
待ち受けにしたいが、この写真は自分だけのもの。誰にも見られたくない。
思いついて、写真アプリに『リヒトさん』と書いたフォルダーを作った。
「できない……」
希空は床にへたり込んだ。
教えてくれる動きがまったくわからないのだ。
頭で理解しようとしても、体は反応しない。
講師は初心者に親切で、まずは自分にも観客にも『踊ってるぽく見える』という、スネイクアームという振り付けを教えてくれた。
その名の通り、蛇の動きを模した優雅な腕の動きをなのだが。
『どうだった?』
くたくたになって家に帰ったらメッセージが届いていたので、早速泣き言を訴えた。
『はじめはみんなそうだよ』
メッセージアプリから、理人が慰めてくれる。
「そうかもしれないんですが、先生と私の動きが別世界すぎるんです」
希空はアプリにタコが泥酔しているスタンプを送った。
「世界に三つしか動きがなくて、絶対にどれかに属さなければ牢獄に入れられる法律があったとしたら。ロボットダンスとか、アニメーションダンスのほうに近いといいますか」
『法律って』
理人からは、笑いすぎて転げ回っているクマのスタンプが送られてくる。
「そのジャンルを真剣に踊られている方々に『一緒にすんな!』って怒られるの確実です。でも、絶対にスネイクアームではないんです」
『ヤメテ』 というメッセージとともに、瀕死のクマのスタンプが送られてきた。
「あ、でも。レッスン着は褒められたんですよ!」
ダボダボ、地味がデフォルトだった希空としては大冒険だった。
ドキドキしていたら講師やスクール仲間から『スタイル抜群!』と褒められたのである。
まじりっけのない賞賛を浴びたのは初めて、希空は舞い上がった。
踊りが散々だったから挽回するつもりで報告したのに、理人からのリアクションが途切れる。
「理人さん?」
『他の奴に、俺より先に希空のセクシーなコスチューム姿を見せたの?』
膨れっ面のクマのスタンプも送られてきた。
……確かに。
ベリーダンスのレッスン着は、お腹の動きがわかりやすいようにという意味あいがあるのかもしれない。
上半身はブラジャーと同じくらいしか布の面積がないものが多い。
下半身用は腰の線がはっきり出るようなパンツやスカートが多い。
希空が買い求めたものもそうだった。
なんて返事をしようかと考えていると。
『俺が希空と離れて寂しい想いしているのに。見せて』
クマが肉球を差し出しているスタンプが送られてきた。
「え……と」
希空がなんと答えようか考えていると、理人も意地になってるのか、メッセージが戻ってこない。
やがて、希空は根負けした。
「ぜーったい! 他の誰にも見せないでくださいね?」
『誰がみせるか。俺の希空が減る!』
嬉しい言葉が返ってきたので、恥ずかしいがレッスン着に着替えた自撮りの写真を送った。
とたんに。
『これでフライト頑張れる!』
ありがとう、感謝、ハートマークだらけのクマのスタンプが連続で届いた。
はしゃいでいる恋人が可愛いく思えた。
……翌日、中番出勤。
レッスン着を理人に褒められたことで、少し勇気が出た希空はピッタリとしたトップスで出勤してみた。
ベリーダンスを調べるうち、勇気を出して検索した、海外ブランドのショップで選んだもの。
胸の大きい女性向けのラインが出ており、ネットで見ると強調しすぎず、さりとて無理に小さくみせたり隠さないバランスに惹かれた。
「うー、緊張する」
バンジージャンプをしたつもりで、ぽちっと通販サイトの購入ボタンを押したのである。
昨日とどいたので、おそるおそる着てみた。
しかし根がチキンだから、カーディガンなどを上に羽織ってしまう。
「おはようございます……」
空港にあるグラハンの事務所に着いた途端、凝視されたので、希空は凹んだ。
ところが。
「どーおしちゃったの、雲晴さん! モデルみたいだよ、絶対にこういう服のほうが似合うって!」
リーダーやママさん同僚にわっと囲まれた。
二十時すぎ。休憩時間に、希空はいそいそと携帯を取り出す。
同僚に私服を褒められたことが嬉しくて希空は早速理人にメッセージを送った。
「今日の服、同僚に褒められました」
すると。
『見せて』
早すぎる。
あちらの時差はいつなんだろうと希空が計算していると、早く早くと急かしてくるクマのスタンプが送られてきた。
「まだ制服なので、着替える時に送ります」
そわそわしているクマのスタンプが返事だった。
帰りの時刻になり、ロッカー室で着替えて姿見の前で自撮りをする。
蛍光灯が気になるが、仕方ない。
「こんなんです」
送った途端。
『ブラボー! でも、なるべく隠して。俺以外に見せないで!』
すぐさま届いたのは、ひざまずいて祈っているクマのスタンプだった。
笑ってしまった。
メッセージの中の彼はお茶目で、とても威厳のある機長とは思えない。
……機長といえば。
希空はあることを思いついて、急いでメッセージを送った。
「私も理人さんの機長姿、欲しいです!」
『惚れ直して』
メッセージと共に機長である四本ラインが入ったジャケットに制帽を身につけた姿、ワイシャツ姿など数枚が送られてきた。
キリリとしていて、これがクルーが知っている理人なのだろう。
しかもカメラ目線の画像。
ときめかないはずがない。
『お嬢様、お気に召しましたか』
メッセージが送られてきたので、大興奮で返事をする。
「かっこいい! 大大大好きだったけど、さらに惚れ直しました!」
ハートマークを乱舞させたら、クマがガッツポーズをしてきた。
「うわぁ。宝物だぁ……どうしよう」
待ち受けにしたいが、この写真は自分だけのもの。誰にも見られたくない。
思いついて、写真アプリに『リヒトさん』と書いたフォルダーを作った。