曇りのち晴れ、SWAN航空幸せ行き〜奥様はエリートパイロットともう一度愛しあう〜
第三話
——最近、垢抜けた装いになり、かつ休憩時間のたびに携帯の前で百面相をしている希空に対して、グラハンの同僚は『雲晴さん、彼氏できたんだね』と生暖かく見守ってくれていたのだが。
理人のほうはそうはいかなかった。
いつぞやの、彼氏のプレゼントを選ぶという言い訳で、ほかのCAを出し抜いて理人をデートに誘った女性から、まず火が広がった。
『セレクトショップでおしゃれな女物を物色してた!』
『あれだけ、常日頃フライトのために目を労ってる一柳キャプテンが、最近、ステイの間ずっと携帯にかじりついている』
追随する意見が出され。
『パリの目抜き通りで、あきらかに本命用のプレゼントを買っていた』
発展した挙句。
『ライネ機長と同居を解消したらしい』
イコール、
『どんな美人CAでも堕ちなかった一柳機長が、とうとう恋人を作ったらしい』
まことしやかな噂が空港やSWAN内に広がっていく。
……二人を同時に見かけることなど皆無のはずなのに、希空と理人をどうして組み合わせることができたのか。
理人の引越しが無事終了した十日後の十二月三十一日。
ミーティングの後、希空はリーダーに呼ばれた。
「雲晴さん、一柳機長と付き合ってるって本当?」
そういえば彼はそんな苗字だったな、と希空は心のどこかで思っていた。
理人は早々に、希空の親に挨拶してくれている。
しかし『見惚れちゃって仕事にならないから!』という希空の要望で、空港では接触していない。
けれど理人は、自分が遅番や休日だと希空を空港まで送ってくれようとしてしまう。
『私の予定に合わせてくれちゃうと、理人さんが体のリズムを崩すからだめです!』
拒否する彼女のため、奇跡的に出勤時間が被っても、一緒に空港まで来たりもしていない。
しかし理人は結婚を前提にしていたから、コソコソしたりはしなかった。
『まずは入籍を先にして同居して。落ち着いてから結婚式のスケジュール詰めていこう』
二人の間では、そういう話になっているから、いずれは双方の会社に届け出る予定である。
もう、公になってもいいのかな、と希空は内心思った。
理人からは『カミングアウトは、希空のタイミングでいい』と言ってもらっている。
彼女は肯定しようと口を開きかけたが、リーダーは複雑な表情で言葉を続けた。
「一柳機長が、実はSWANのオーナーの一族って知ってた?」
「はい、それは」
初めて愛し合った日の翌日、希空の家まで送ってきてくれた時に告白された。
そのあと、偶然に彼の祖母に拉致(?)され。
今では一柳レディスとメル友になってしまっている。
「……でも。なんで、リーダーがそのことをご存じなんですか」
理人は公にするのを嫌がっていたのに。
リーダーは真面目な顔になっていた。
「知ってる奴は知ってる。だから、雲晴さんのことを『一柳機長と付き合っているから、彼に庇ってもらえるのをいいことに、職務を怠慢しているのではないか』と言ってるらしいんだ」
「え?」
ありえないことを言われて、希空は疑問を口にする。
「……私が、仕事の手を抜いてるということですか?」
『一柳機長が云々』はさておき。なにか見落としでもして、事故を誘発しかけただろうか。
常日頃、飛行機とグラハンメンバーの安全のため、希空達スタッフは互いに厳しい目で確認しあっている。
ここ数ヶ月以上、同僚から注意されたことはない。
「なにがありましたか」
姿勢を正した希空に、リーダーが困惑ぎみに告げてきた。
「複数のCAから、会社にクレームが入っているそうだ。『最近、雲晴のプッシュ時に揺れると、搭乗客から文句が入っている』と」
「……理人さんにどうにかしてもらおうと考えたことはないんですが」
希空は眉をハの字にする。
権力のある恋人の笠にきるつもりはない。
しかし。
「『彼のことを仕事中に考えてなかったか』と問われたら、『ない』と一〇〇パーセントは言い切れないかもしれません」
視線を床に落として申告すれば、リーダーの顔が厳しくなる。
「……集中力が途切れていたかもしれないってことか」
「はい」
希空は頷きながら、真っ青になった。
理人のほうはそうはいかなかった。
いつぞやの、彼氏のプレゼントを選ぶという言い訳で、ほかのCAを出し抜いて理人をデートに誘った女性から、まず火が広がった。
『セレクトショップでおしゃれな女物を物色してた!』
『あれだけ、常日頃フライトのために目を労ってる一柳キャプテンが、最近、ステイの間ずっと携帯にかじりついている』
追随する意見が出され。
『パリの目抜き通りで、あきらかに本命用のプレゼントを買っていた』
発展した挙句。
『ライネ機長と同居を解消したらしい』
イコール、
『どんな美人CAでも堕ちなかった一柳機長が、とうとう恋人を作ったらしい』
まことしやかな噂が空港やSWAN内に広がっていく。
……二人を同時に見かけることなど皆無のはずなのに、希空と理人をどうして組み合わせることができたのか。
理人の引越しが無事終了した十日後の十二月三十一日。
ミーティングの後、希空はリーダーに呼ばれた。
「雲晴さん、一柳機長と付き合ってるって本当?」
そういえば彼はそんな苗字だったな、と希空は心のどこかで思っていた。
理人は早々に、希空の親に挨拶してくれている。
しかし『見惚れちゃって仕事にならないから!』という希空の要望で、空港では接触していない。
けれど理人は、自分が遅番や休日だと希空を空港まで送ってくれようとしてしまう。
『私の予定に合わせてくれちゃうと、理人さんが体のリズムを崩すからだめです!』
拒否する彼女のため、奇跡的に出勤時間が被っても、一緒に空港まで来たりもしていない。
しかし理人は結婚を前提にしていたから、コソコソしたりはしなかった。
『まずは入籍を先にして同居して。落ち着いてから結婚式のスケジュール詰めていこう』
二人の間では、そういう話になっているから、いずれは双方の会社に届け出る予定である。
もう、公になってもいいのかな、と希空は内心思った。
理人からは『カミングアウトは、希空のタイミングでいい』と言ってもらっている。
彼女は肯定しようと口を開きかけたが、リーダーは複雑な表情で言葉を続けた。
「一柳機長が、実はSWANのオーナーの一族って知ってた?」
「はい、それは」
初めて愛し合った日の翌日、希空の家まで送ってきてくれた時に告白された。
そのあと、偶然に彼の祖母に拉致(?)され。
今では一柳レディスとメル友になってしまっている。
「……でも。なんで、リーダーがそのことをご存じなんですか」
理人は公にするのを嫌がっていたのに。
リーダーは真面目な顔になっていた。
「知ってる奴は知ってる。だから、雲晴さんのことを『一柳機長と付き合っているから、彼に庇ってもらえるのをいいことに、職務を怠慢しているのではないか』と言ってるらしいんだ」
「え?」
ありえないことを言われて、希空は疑問を口にする。
「……私が、仕事の手を抜いてるということですか?」
『一柳機長が云々』はさておき。なにか見落としでもして、事故を誘発しかけただろうか。
常日頃、飛行機とグラハンメンバーの安全のため、希空達スタッフは互いに厳しい目で確認しあっている。
ここ数ヶ月以上、同僚から注意されたことはない。
「なにがありましたか」
姿勢を正した希空に、リーダーが困惑ぎみに告げてきた。
「複数のCAから、会社にクレームが入っているそうだ。『最近、雲晴のプッシュ時に揺れると、搭乗客から文句が入っている』と」
「……理人さんにどうにかしてもらおうと考えたことはないんですが」
希空は眉をハの字にする。
権力のある恋人の笠にきるつもりはない。
しかし。
「『彼のことを仕事中に考えてなかったか』と問われたら、『ない』と一〇〇パーセントは言い切れないかもしれません」
視線を床に落として申告すれば、リーダーの顔が厳しくなる。
「……集中力が途切れていたかもしれないってことか」
「はい」
希空は頷きながら、真っ青になった。