曇りのち晴れ、SWAN航空幸せ行き〜奥様はエリートパイロットともう一度愛しあう〜

第三話 —理人SIDE—

 ——コックピット内。
 
「80knot」
 PMのコールを受けて、PFが答える。
「check. 」

 離陸推進力がセットされていること、オートスロットルがHOLDモードになっていることを確認した。

「V1」
 PMのコールがコクピット内に響き、PFはスラストレバーから手を離す。

「 Rotate.(機首上げ)」
 PFはPMからのコールを待って、機体をリフトオフさせるため操作を開始する。
 エンジンの出力が増して速度が達した時、SW一一九三は機械に似つかわしくなく、それこそ白鳥のように離陸した。

「SWAN1193 airborne.
(SWAN1193、離陸しました)」

『SWAN1193 contact departure on 123.45, have a good flight.
(SWAN1193、123.45の周波数でデパーチャーと連絡を取ってください。良い飛行を)』

「Switching to departure, SWAN1193. Thank you.
(デパーチャーに切り替えます、SWAN1193。ありがとうございます)」

 ……数分後。コックピット内にくつろいだ雰囲気がうまれた。
 
 CAP(Captain )職分の 一柳理人(いちやなぎ りひと)へ、フィンランド人でCOP(Copilot)職分に就いているミカ・ライネが声をかけてきた。

 二人とも機長ライセンスを持っているが、シフトの関係で機長が副操縦士(コーパイ)として乗り込むことがある。 理人とミカは親友だから、こんな仕事は大歓迎だ。

 昨日はミカが往復ともPFを務めたので、今日は理人がPFとして左側のシートに座る。 
『ワイシャツが半袖だから、同じ側に座ってると片腕だけ焼けちゃうじゃん。両腕ともこんがり焼きたいの、俺は』というミカのリクエストを受け入れた形だ。


「相変わらずミスター(・・・・)雲晴のプッシュバックは神がかってるな」

 ミカは、目を瞑って聞いていれば日本人かと思うほど流暢な日本語を話す。 

「どんな奴なんだろう、ミスター雲晴は。コックピットから見てると、華奢だよな。年齢は俺らより下かなあ」

 ミカは三十四歳、理人は彼の二つ下だ。

「……俺が覚えている限りでは、雲晴氏がパイロットの間で話題になり始めたのは三、四年ほど前からだな」

 大卒で系列のグランドハンドリング会社に入社したとしても、大型免許や牽引免許など取らねばならないだろうから二十六、七歳くらいにはなっているのかもしれない。

 ミカは理人の言葉に目を丸くした。

「……飛行機以外には無関心野郎が意外……」

 ゴニョゴニョとつぶやく。

「ねえ『機長』?」

 ミカが猫撫で声で名前ではなく役職で呼ぶ時は要注意だ。

「……なんだ」

 理人は警戒して問い返す。

「沖縄行って戻ってきたら、二人とも明日休日で次の日自宅スタンバイだろ。今日の夜、ライン整備やグラハンと交流会をする。機長も混ざるべきだと思う」

「……お前、日本人の俺よりもマメだよな」

 休日は勉強や休養に当てたい理人とミカは正反対だ。

「どうする?」

 ミカのワクワクしている顔を眺めているうち、理人は笑いがこみあげてきた。
 黙っていれば親友は、貴公子そのものなのに。

「……謹んで、参加するよ」

 野郎会というのは女性がいない分、お行儀に気をつけなくていいので楽しみだ。

「やった!」 
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