曇りのち晴れ、SWAN航空幸せ行き〜奥様はエリートパイロットともう一度愛しあう〜
第一章 飲み会で一目惚れ

ベリが丘で飲み会(1)

「雲晴さん、今日暇?」

 リーダーに声をかけられた。

「残業ですか? いいですよ」

 予定もないし、明日は遅番だから多少なら問題はない。

 でも、だれか当欠(とうけつ=当日欠勤)があったかな。
 希空の目線はオフィスのシフト表を彷徨う。

 彼女の行動の意味を察してリーダーが苦笑する。

「違くて。ライン整備さんから『今日飲み会するんですけど、グラハンさんも参加しませんか』ってメールをもらったんだ。雲晴さんも来ない?」

「……私が行っていいんでしょうか」

 希空は遠慮がちに口にした。

 きっと男性だけだ。
 また、あんな目に遭ったら。
 かつての会社での、嫌な記憶が蘇った希空は尻込みする。
 
「それがねー、『雲晴さんもぜひ』ってリクエストなんだ。 皆『プッシュ』の雲晴さんと話したいみたいだし。怖いなら俺の隣にいればいいよ」

 リーダーが親切に勧めてくれたので、希空は頷いた。

 空港から電車で移動している最中、どこに向かうのかを聞いてみる。

「場所はどこですか?」

 つい、欠伸が出そうになったので噛み殺す。始発便を飛ばすために今日は四時起きなのだ。
 リーダーも盛大にあくびをしたあと、教えてくれた。

「ベリが丘だって。行ったことある?」

 高台には古くから富裕層が集まり、格調高い街として知られている街だ。
 数年前からは、近隣エリアの開発も進んでいるという。

「ないです。でも、確かおしゃれな街って評判ですよね」

 ……駅に降りた時、希空は失敗に気がついた。

 今日の希空は、パンツに男物のシャツをだぼっと着ている。
 ファッションではなく、単にサイズがないだけだとバレバレだろう。
 周りはおしゃれな人ばかりだから、やぼったい自分とのミスマッチ感が半端ない。

「……あの、私。とっても場違いな気がしてきました」

ビクビクしながらリーダーに囁く。すると、彼も半泣きになって同意してくれる。

「奇遇だな、俺もそう思ってた! 嫁ちゃんから『行ってみたい』ってリクエストされたから下見のつもりで来たのに……。帰りてぇっ」 

 リーダーの弱気に、ほっとした希空はおずおず聞いてみる。

「どたキャンしたらダメですか?」

「雲晴さん、俺を見捨てないで!」

 リーダーはすがらんばかりだった。

「……ですよね」

 希空とリーダーは、まるで売られていく子牛のようにとぼとぼと歩いていた。

 ……二人が店に入っていくと、奥から金髪で長身の男性が二人に向かって手を振ってきた。

 きょろきょろ。
 希空は周りを見渡したが、どうも自分達に手を振っている? 
 彼女は人違いだと半ば確信しつつ、こっそりリーダーに聞いてみる。

「あのイケメン金髪男性、お知り合いですか?」 
 そっと質問してきた希空の声と。

「ら、ライネ機長っ⁉」
 裏返しになったリーダーの声が被った。

「え……あの?」
 カレンダーやPR動画に起用されるほど、顔の完成度が高い人物である。

 改めて飲み会の席を見渡す。すると、やべぇ……という声がリーダーから聞こえてきた。

「しかも、モテパイ(ロット)ランキング、ナンバーワンと噂の高い一柳機長までいるじゃんか……!」

 希空も目を瞠った。
 イケメン金髪男性の隣には日本人離れした美形黒髪男性がテーブルを囲んでいる。

「……天上人と一緒なんて、無理ぃ……」
 青ざめているリーダーに、希空はおおいに同意した。
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