曇りのち晴れ、SWAN航空幸せ行き〜奥様はエリートパイロットともう一度愛しあう〜
ベリが丘で飲み会(3)
ビクビクしていたが、職は違えど結局は飛行機大好きで空好き達の集まり。
希空にとって、楽しい会となった。
和気藹々としているうちに、ミカ・ライネ機長主催『第一回協力会社懇親会』はお開きとなる。
……始発から飛行機を飛ばした参加者達だったので、二十一時でも体感は真夜中に近い。
それに明日も仕事がある人間のほうが多かった。
パイロット二人が多めに出し、残りを割り勘にした額を一人が皆から徴収し終えると。
「忘れちゃいけない、IDこーかーん!」
ライネが、いやミカが声を張り上げて希空に向けて携帯を差し出した。
一瞬のち、男達も同じ行動をとる。
「は、……え?」
チャラい。チャラすぎる。
世のパイロットとはこんななのだろうか、と希空は自問し。いや、そんなことはないと自答する。
きっとミカが類まれな陽キャラなだけなのだ。
けれど、陰キャラを自認する希空にはまぶしすぎる。
自分としては、理人くらい落ち着いていたほうが安心する。……ではなくて!
男達の会に紅一点参加させてもらっただけでも、女子からどんなやっかみを受けるかしれない。
まして、リーダーが教えてくれたことによると、日本人パイロット理人は若干三十二歳でありながら機長である。
四十代で機長になるパイロットが多いことを考えると、理人も三十四歳だというミカも、エリートの中のエリート。
どちらも長身で美形。おまけに浮いた噂がないらしく、玉の輿を狙っている女性にとっては超優良物件。
希空が気遅れするのも当然である。 彼女がミカの携帯を避けて、他の男性から受け取ろうとすると。
「だめです! 雲晴へのコンタクトは、保護者のわたくしを通していただきまっす!」
ありがたいことに、希空と携帯の間にリーダーが立ちはだかってくれた。
「えー?」
「協力会社同士、仲良くやりましょー」
「グラハンガールズと合コンしたい〜」
整備班がリーダーと交渉をしている間に。
ひょい、と理人が希空の携帯を取り上げ、なにごとかを操作した。
「あー! 機長、ずりぃ〜」
めざとく見つけた整備班が物申したが。
「じゃ。次は俺ね」
ミカが鮮やかに理人の手から希空の携帯を奪って操作する。
理人がミカを睨めば、ヒョイと希空の手に携帯がもどってきた。
「ありがとうございます」
希空は携帯を握りしめる。
二人のパイロットの連絡先は宝物だ。
自分から連絡することはないが、これから二人の乗った機体を見るたび、身が引き締まるだろう。
……結局、整備班はリーダーとのみ交換。
希空は理人とミカとのみ交換した。
ちなみに、ミカは全員と交換している。
◇■◇ ◇■◇
翌日、自分の携帯を確認した希空は目をまん丸くした。
「一柳さんからだ」
メッセージアプリに受信があった。
『昨日はありがとう。会えて嬉しかった』
いい人だな。
彼にとって希空など、滑走路に落ちている小石よりちっぽけな存在だろうに。
「こちらこそありがとうございました。貴重なお話を聞かせていただき、楽しかったです」
返事をしたら、クマが花束を持っているスタンプが送られてきた。
「なんでクマ?」
真面目そうな男性がスタンプを選んでる姿を想像して、ほっこりした。
その翌日、さらには翌々日も。
意外なことに理人は一日一回以上メッセージをくれた。
たまに『今日のプッシュは酷かった。君にプッシュしてもらいたかった』といったメッセージがくると素直に嬉しい。
やりとりをするようになってから一週間後。
『迷惑じゃない時間にメッセージを送りたいから、君のシフトを教えてほしい』
そんなメッセージをもらった。ドキンとする。
『君から返事がこないと寂しい。勤務中だってわかれば少しは気が紛れる』
……これは、どんな意味なのだろう。
希空は途方に暮れた。
まるで彼が自分のことを、とても気にしているようではないか。
恋愛経験値が浅い自分だと、舞い上がってしまう内容である。
希空からの返事がシフトの関係で少し遅れたりすると、彼女を気遣うメッセージを送ってくれる。
「……心配させちゃ、いけないよね」
自分に言い訳して、わかりましたという返事とともに、シフトを写した写真を送ったら。
『俺の勤務表も送る。でも君からは、いつでも送ってほしい。いつでも待っている』
希空からすれば意味深なメッセージとともに、理人からも、すぐにシフトの画像が送られてきた。
……以来、街角や風景の写真とともに『君に見せたい』『君と一緒に来れたら』と、どきりとするようなメッセージが理人から送られてくるようになったにしても。
「社交辞令。というより、多分パイロットとしての処世術かな」
全責任と指揮権を持つPIC(Pilot In Command)だから、周囲との関係を円滑にしようとしているだけなのだ。
ミカからもたまにくるが、希空を気遣うか、なぜか理人情報ばかり。
希空は二人のメッセージを楽しく読ませてもらいながら、今日の東京空港はこんなことがあった、こんな天気だったという内容の返事をする。
二人と、やりとりが始まって二ヶ月。
「一柳さんやライネさんからのメッセージに深い意味はないの、舞いあがっちゃだめ」
仕事以外で男性とのやり取りが初めてな希空は、自分を戒める。
……そんなことを言っている時点ですでに手遅れだという声が心のどこかで聞こえたが、希空は携帯の電源を切ったときに一緒にオフにしてしまった。
希空にとって、楽しい会となった。
和気藹々としているうちに、ミカ・ライネ機長主催『第一回協力会社懇親会』はお開きとなる。
……始発から飛行機を飛ばした参加者達だったので、二十一時でも体感は真夜中に近い。
それに明日も仕事がある人間のほうが多かった。
パイロット二人が多めに出し、残りを割り勘にした額を一人が皆から徴収し終えると。
「忘れちゃいけない、IDこーかーん!」
ライネが、いやミカが声を張り上げて希空に向けて携帯を差し出した。
一瞬のち、男達も同じ行動をとる。
「は、……え?」
チャラい。チャラすぎる。
世のパイロットとはこんななのだろうか、と希空は自問し。いや、そんなことはないと自答する。
きっとミカが類まれな陽キャラなだけなのだ。
けれど、陰キャラを自認する希空にはまぶしすぎる。
自分としては、理人くらい落ち着いていたほうが安心する。……ではなくて!
男達の会に紅一点参加させてもらっただけでも、女子からどんなやっかみを受けるかしれない。
まして、リーダーが教えてくれたことによると、日本人パイロット理人は若干三十二歳でありながら機長である。
四十代で機長になるパイロットが多いことを考えると、理人も三十四歳だというミカも、エリートの中のエリート。
どちらも長身で美形。おまけに浮いた噂がないらしく、玉の輿を狙っている女性にとっては超優良物件。
希空が気遅れするのも当然である。 彼女がミカの携帯を避けて、他の男性から受け取ろうとすると。
「だめです! 雲晴へのコンタクトは、保護者のわたくしを通していただきまっす!」
ありがたいことに、希空と携帯の間にリーダーが立ちはだかってくれた。
「えー?」
「協力会社同士、仲良くやりましょー」
「グラハンガールズと合コンしたい〜」
整備班がリーダーと交渉をしている間に。
ひょい、と理人が希空の携帯を取り上げ、なにごとかを操作した。
「あー! 機長、ずりぃ〜」
めざとく見つけた整備班が物申したが。
「じゃ。次は俺ね」
ミカが鮮やかに理人の手から希空の携帯を奪って操作する。
理人がミカを睨めば、ヒョイと希空の手に携帯がもどってきた。
「ありがとうございます」
希空は携帯を握りしめる。
二人のパイロットの連絡先は宝物だ。
自分から連絡することはないが、これから二人の乗った機体を見るたび、身が引き締まるだろう。
……結局、整備班はリーダーとのみ交換。
希空は理人とミカとのみ交換した。
ちなみに、ミカは全員と交換している。
◇■◇ ◇■◇
翌日、自分の携帯を確認した希空は目をまん丸くした。
「一柳さんからだ」
メッセージアプリに受信があった。
『昨日はありがとう。会えて嬉しかった』
いい人だな。
彼にとって希空など、滑走路に落ちている小石よりちっぽけな存在だろうに。
「こちらこそありがとうございました。貴重なお話を聞かせていただき、楽しかったです」
返事をしたら、クマが花束を持っているスタンプが送られてきた。
「なんでクマ?」
真面目そうな男性がスタンプを選んでる姿を想像して、ほっこりした。
その翌日、さらには翌々日も。
意外なことに理人は一日一回以上メッセージをくれた。
たまに『今日のプッシュは酷かった。君にプッシュしてもらいたかった』といったメッセージがくると素直に嬉しい。
やりとりをするようになってから一週間後。
『迷惑じゃない時間にメッセージを送りたいから、君のシフトを教えてほしい』
そんなメッセージをもらった。ドキンとする。
『君から返事がこないと寂しい。勤務中だってわかれば少しは気が紛れる』
……これは、どんな意味なのだろう。
希空は途方に暮れた。
まるで彼が自分のことを、とても気にしているようではないか。
恋愛経験値が浅い自分だと、舞い上がってしまう内容である。
希空からの返事がシフトの関係で少し遅れたりすると、彼女を気遣うメッセージを送ってくれる。
「……心配させちゃ、いけないよね」
自分に言い訳して、わかりましたという返事とともに、シフトを写した写真を送ったら。
『俺の勤務表も送る。でも君からは、いつでも送ってほしい。いつでも待っている』
希空からすれば意味深なメッセージとともに、理人からも、すぐにシフトの画像が送られてきた。
……以来、街角や風景の写真とともに『君に見せたい』『君と一緒に来れたら』と、どきりとするようなメッセージが理人から送られてくるようになったにしても。
「社交辞令。というより、多分パイロットとしての処世術かな」
全責任と指揮権を持つPIC(Pilot In Command)だから、周囲との関係を円滑にしようとしているだけなのだ。
ミカからもたまにくるが、希空を気遣うか、なぜか理人情報ばかり。
希空は二人のメッセージを楽しく読ませてもらいながら、今日の東京空港はこんなことがあった、こんな天気だったという内容の返事をする。
二人と、やりとりが始まって二ヶ月。
「一柳さんやライネさんからのメッセージに深い意味はないの、舞いあがっちゃだめ」
仕事以外で男性とのやり取りが初めてな希空は、自分を戒める。
……そんなことを言っている時点ですでに手遅れだという声が心のどこかで聞こえたが、希空は携帯の電源を切ったときに一緒にオフにしてしまった。