きっかけもはじまりも
***

「遅れましたぁ」

はぁはぁと息を切らしながら、私はがらりと教室のドアを開けた。

黒い頭がいっせいにこちらを向く。

その向こう側から、眼鏡をかけた先生が、驚いたような声を投げてよこした。

「おっ、山下!遅かったな。大雪で大変だったんじゃないのか」

「はい、やっぱりこの雪で電車とかバスとか、うまく繋がらなくて。遅刻してすみません」

釈明しながら、私は友達の由紀の隣の席につく。偶然空いていたのか、取っておいてくれたのか。

「大雪だし、休んでも大丈夫だったのに、無理してきたのか?お疲れさん」

「だって、先生の授業、どうしても受けたかったんですもん」

冗談めかした中に本心を紛れ込ませて私は言った。

「お、おう、そうか。それはありがとな」

先生は眼鏡にちょこっと指を触れると、にっとした。

でも、少しだけ照れ臭そうに見えたのは、私が先生を好きだから、そう感じただけかな?

ふふっと満足そうな私を見て、由紀がくすっと笑った。私にしか聞こえない小声で言う。

「いったい、どっちが好きなんだか」

私も由紀にしか聞こえない声で言った。

「どっちもだよ」

< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop