きっかけもはじまりも
***

黒沼先生は眼鏡の位置をくいっと直す仕草をした。これは照れている時の癖だと知ったのは、割と最近のことだ。

「ありがとう。そんな山下先生が、今じゃ同じ学校の数学教師で、しかも俺の恋人なんてね」

私は肩をちょっとすくめて、ふふっと笑った。

「不思議ですね。――でも、だからなのかな」

窓の外の白い景色を見ながら言った。

「私、大雪の日ってそんなに嫌いじゃないんですよ。だって、あの大雪のおかげで、先生にだいぶ自分を印象付けられたんじゃないかなって、思うから」

黒沼先生は懐かしそうに、しかし苦笑いを浮かべる。

「確かに、あの日のことはなかなか忘れられないな。――あっ、と。そろそろ職員室に行かないと」

「そうだ。会議があるんでしたね」

私たちは顔を見合わせると、急ぎ足で職員室に向かう。

雪はやみそうにない。今日もまた除雪作業が待っている。

それなら今夜の晩御飯は、簡単であったまるお鍋にしようかな。黒沼先生と雪を眺めながら、雪見酒というのもいい。

幸せな、でも、ほんのちょっとくすぐったいような気持ちになりながら、私は高校生の時から好きだった彼の背中を追いかけた。






(了)
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