立ち止まって、振り向いて
とは言え、野島さんはゲームに集中できていないようで、たまにちらちらと、背後の床で正座しているわたしを見ては、肩を竦める。仕事中の堂々とした様子からは想像もできない姿だ。
「野島さん」
「なっ、なに!?」
「隣で見ても良いですか?」
「いいよ、別に、いいけど、さあ……」
きちんと許可を取ってから、野島さんの隣まで行って、モニターを覗き込む。
ふむ。銃撃戦だ。バトルロイヤルだ。百人のプレイヤーが広大なフィールドに散って、各々武器や防具を揃え、他のプレイヤーとの戦闘が繰り広げられている。
パソコンにはヘッドセットが繋がれていて、さっきまでパーティーを組む相手とボイスチャットをしながらプレイしていたらしいけれど、わたしが来たせいでチャットはミュート、ヘッドセットすら着けていないから向こうからの声も聞こえず、意志の疎通が円滑に行われていなかった。
パーティーを組んでいる相手が何かアイテムを欲して頻りにアピールしているが、動揺している野島さんにはそれが上手く伝わっていないみたいだ。
わたしはゲームに詳しくないけれど、野島さんたちがいつも遊んでいるゲームの内容は知っている。彼らは次々に新しいゲームをプレイするタイプではなく、気に入ったゲームを長く続けている。
このバトルロイヤルゲームと、オープンワールドのアクションアドベンチャーゲーム、そしてサバイバルホラーゲームの三つだ。時たま「同接がどんどん減って寂しい」と嘆いていたりもするけれど、それでも夜な夜な遊び続けるくらい好きなのだろう。
そんな様子を見ていると微笑ましいし、武器やアイテムを集めて戦闘を繰り広げるのは、爽快感があって楽しそうだとも思う。
「……葵ちゃんさあ」
集中できずにいる野島さんが、気まずそうな声色で切り出した。
「はい」
「何度も言うけど、来る場所が明らかに間違っているし、僕いやだよ、きみの恋人に怒られるの……」
「島さん」
「野島さんね」
「野島さん、わたし、恋人なんていませんけど」
「ええっ?」
わたしの発言に、野島さんはびくりと肩を震わせ、ゲーム内で一発誤射をしつつ、椅子ごと後退った。
そして「じゃあこの男は?」とパソコンのモニターを指差す。