濁った僕を抱きしめて
今更何に怯えているんだ。


「……ごめん、嫌なら言わなくていいよ」
「いえ」


彼と視線がぶつかる。
わたしは今、どんな顔をしているのだろうか。


きっと言葉では言い表せない表情だろう。


萩乃 璃恋(はぎの りこ)、です」


「はぎの りこ……どういう漢字?」
「はぎは植物とかの萩で、のはなんて言うんですかね……可愛いやつ?」
「なにそれ」


あ、笑った。


口角を上げた妖艶な笑みなら何度も見た。
そうではなくて、心からの笑みというか、なんというか。


どうにもむず痒くて、それを誤魔化すように口を開いた。


「りは瑠璃色とかの璃で、こは恋です」
「なんか綺麗な名前だな」
「そう言うあなたの顔も綺麗だと思いますけど」
「なんだよそれ」


ーーあなたの名前は?


喉の先まで出かかっているのに、あと少しの勇気が足りない。


聞きたい。あなたを形成する大事な部分となる名前を、わたしは知りたい。


でも、もし嫌われたら?
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