濁った僕を抱きしめて

わたしの顔を覗き込みながら聞いてくる。
言葉の意味が上手く分からなくて、思わず聞き返した。


「他に行きたいところ。ないの?」


本音を言うならば靴が欲しい。
実際今も靴擦れを起こしていて、さっきから歩く度にずきりと痛む。


でも今日はもうかなりの量の服を買ってもらったし、やめにしようと思ったのに。


言うべきか、言わないべきか。


こうしている間にも何軒かの店を通り過ぎていく。
視界の先に靴屋を捉えた時、拓海くんが言った。


「あ、俺靴欲しいんだよね。いい?」
「え、あ、いいですよ」
「璃恋もいいのあったら言って。買うから」
「でも、今日はもういっぱい買ってもらったし」
「そんなのいいって」


それだけを言い残して、拓海くんは靴屋へと駆け出して行った。


その背中が小さい子供のように見えて、見守る親のように微笑んだ。


わたしも拓海くんを追いかけて、小走りで靴屋へと入った。


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