濁った僕を抱きしめて
もし、それで彼の触れてはいけない場所に触れてしまったら?
その時、わたしはー
「聞かねえの?」
「っえ、何をですか?」
笑ったつもりだったが、上手く笑えただろうか。
「俺の名前。俺だけ聞くってのもあれだろ」
「良いんですか、聞いて」
「うん、別に減るもんでも無いし」
彼は立ち上がると電気ケトルに水を入れ、カチッとスイッチを押した。
「……じゃあ、教えてください。名前」
唇を噛んで、わたしの方をチラッと見る。
目が合って、すぐに逸らされた。
「……黒瀬拓海」
「くろせ、たくみ?」
「うん。くろは色の黒。せはなんか、よくあるじゃん」
「なんですかそれ」
声をあげて笑った。
つられて黒瀬さんも笑った。
「たくみ、ってどういう漢字ですか?」
「道を拓くの拓くみたいなやつに海。呼び方は任せるよ」
「任せるって言われるのが一番嫌いなんですよね」
「うわ、面倒臭い。じゃあ下の名前にして」