濁った僕を抱きしめて
「ただいま~!」
拓海くんの上機嫌な声が聞こえる。
何かいいことでもあったのだろうか。
あれ、どうしてだろう。
その声が、どうにも、遠い。
座っている足元に視線をやる。
あれ、おかしい。
拓海くんが出て行く前から洗濯物を畳んでいたはずなのに、わたしの足元にはまだ洗濯物が散らばっている。
目の前のドアが開く。
いつも通りレジ袋を持った拓海くんが入ってくる。
手からレジ袋を落として、小走りでわたしの方に向かってくる。
「拓海、くん」
「どうした、なんかあった?」
何もない。
それなのに、どうしてこんなに身体が重いんだろう。
自分の声も、拓海くんの声もずっとずっと遠い。
耳元で拓海くんが話しているはずなのに、数メートル離れているような距離感。
拓海くんが机の上に置かれたわたしの携帯を手に取る。
画面を見ると、拓海くんの目が大きく見開かれた。