濁った僕を抱きしめて
「遅れるよりいいじゃないですか。ほら、五分前行動って言いますし」
「そうだけどさぁ」


拓海くんがこちらに歩いてくる。


何かと思うと、わたしに縋るように抱きついてきた。


「何ですか、珍しいですね」
「んー、そう?俺だって甘えたいときあるんだよ」


ぐりぐりとわたしの肩に頭を埋める。


光によって輝いた髪から拓海くんの匂いがふわりと漂う。
拓海くんは動かず、わたしの鼓動を確かめるようにして首元に顔を動かす。


息がかかってくすぐったい。
わたしは拓海くんの頭を撫でた。


それで満足したのか、拓海くんはわたしの身体から離れた。


大型犬みたいだと思って笑う。


「何で笑ってんの」
「いや、大型犬みたいだなって」
「やだ、もっと可愛いのがいい」
「大型犬も十分可愛いですよ」


終わったら拓海くんが迎えに来てくれることになっている。
玄関で拓海くんに見送られて、わたしは指定の場所へと向かった。
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