濁った僕を抱きしめて




電車に乗り、ふたつほどの駅を通り過ぎる。


次の駅を降りて、五分ほど歩いた場所にそのカフェはあった。


母親曰く予約をしておいてくれたらしい。
入り口にいた店員さんに名字を言うと、予約は入っていませんと言われた。


それどころかそのような名前のお客さんも来ていないとのこと。


頭の中が真っ白になって、冷や汗が噴き出る。
すいません、と呟いて店を出た。


近くのベンチに座り、鞄から携帯を取り出す。


取り敢えず母親にメールをしようと思ってアプリを開いた。
母親にメールを送る。


連絡はつかず、迷った末に拓海くんに電話をかけた。


「もしもし。どうした、もう終わった?」
「違うんです、予約したって言ってたのに、予約はないって。萩乃って言う名字のお客さんもいないって」
「ちょっと待って、どういうこと?」


わたしは拓海くんに状況を説明した。
動揺してばかりでいつもより聞きにくかっただろうに、拓海くんはいつもと変わらない様子で話を聞いてくれた。
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