濁った僕を抱きしめて
下の名前。
呼び捨てでいいのか、くんとかさんとかをつけた方がいいのか。
悩んだ挙句、わたしは、
「拓海、くん」
拓海くんは照れたのか、顔を背けた。
わたしまで恥ずかしくなってくる。言ったのは自分だと言うのに。
カチッと音がして、お湯が沸いたことを知らせた。
拓海くんが立ち上がり、カップ麺にお湯を注いでいく。
「あ、ごめん。勝手に俺カップ麺食べる気だったけど、食べたかった?」
「いや、大丈夫です。フルーツサンド貰ってもいいですか」
「どうぞどうぞ」
包みを開けてむしゃりと食べる。
甘いクリームと少し酸っぱい苺の風味が口いっぱいに広がる。
「美味しい……」
思わずそうこぼすと、机に頬杖をついてわたしを見ていた拓海くんがふっと笑った。
「……今笑いました?」
「笑った。可愛いなって思って」
こんなことを言われるのは初めてだった。
誰かを好きになることはあっても、付き合いたいとか特別になりたいとかは思わなかったし、ただ好きでいればそれで良かった。