濁った僕を抱きしめて
わたしから離れ、近くのタバコとライターを手に取る。


タバコを口にくわえ、ライターで火をつけると煙を吐き出す。


「あいつは相当狂ってる。人を殺すことになんとも思ってない。最低なやつだよ」
「そんなことないです」


声を上げて言うと、タバコを手に持ってわたしの目の前にしゃがむ。


「そんなことない?じゃああいつは今殺しやめてんのか?違うだろ」


男は近くにあった段ボールを蹴飛ばし、タバコを吸った。
さっきからタバコの匂いが鼻を刺す。
得意じゃないからやめて欲しいのに、わたしにはそれを言う勇気がない。


「あいつは変わらず人を殺してる。それもずっとな」


ひとつ、不思議なことがあった。


どうして、この人は拓海くんのことを知っているんだろう。


普通こういう時にそんなことを聞いてはいけないのかもしれない。


相手の逆鱗に触れて死ぬかもしれない。


それでも、わたしはもう怖いものなんかない。
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